「知らない」を知り、学習の入り口に立つ 4つの対象領域
市場や商品に対する理解が足りない。チームメンバーに対して、あるいは自分自身に対してこのような課題を抱きながらも、なかなか個々の学習に任せて知識を底上げできていない現状もあるのではないでしょうか。社会人の学習は、それほどかんたんではありません。今回は、以前の記事
に続いて、社会人の学習における認知心理学のヒントをご紹介します。
4つの学習対象領域
「改訂版ブルームのタキソノミー」について、以前の記事では「記憶、理解、応用、分析、評価、創造」の6段階の学習プロセスについてお話ししました。この分類体系を構成するもうひとつの軸は、何を学ぶのかという以下の4種類の学習対象領域です。
1.事実的知識(要素): その分野の基本的な用語やデータなど、いわゆる「点」の知識。
2.概念的知識(構造): 用語と用語のつながりや因果関係など、点を結んだ「線」の知識。
3.手順的知識(マニュアル): 具体的な作業手順やフローの知識。
4.メタ認知的知識(俯瞰): 自分が何を知っていて、何を知らないかを客観視し、学習の計画を立てるための知識。
学習目標によって「与える知識」を変える
6段階の学習プロセスが学習の階段だとすると、この「4つの学習対象領域」は、上述①から④まで順番に獲得していくものではなく、学習目標を設計するときに使い分けるカテゴリーです。
新入社員にはまず用語に慣れてもらうために「事実」を「記憶」させ、現場に出ているメンバーにはマニュアルである「手順」を「応用」させ、新しい企画を立てるメンバーにはビジネスの構造である「概念」を「理解」させる。
このように、学習をスタートするときは「今回の学習目標を達成するためには、どの知識を獲得するべきか」を意図的に選択し、学習対象領域の水準や順序を設計することが重要です。
「未知の未知」を打破するメタ認知
この4つの領域のなかで、社会人の学習において最も重要な鍵を握るのが「④メタ認知的知識」です。
新しい分野を学ぶ初心者は、自分自身が何を知らないのかすらわかっていない、「未知の未知」という状態にあります。この状態では調べるべきキーワードすら思い浮かばず、どこが学習のゴールかも理解できません。
そこから抜け出し、たとえば自分には概念的知識の理解が足りていないのだと自覚する、「既知の未知」ともいうメタ認知がはたらいて初めて、自律的な学習のスタートラインに立つことができます。
「社会人の学習」にこそ設計が必要
しかし、このメタ認知を学習者自身がひとりで獲得することは容易ではありません。受験や定期テストといった無条件の目標がある学生と異なり、学習経験を経た社会人には学習を拒もうとする心理がはたらきます。明確な必要性や効果、動機を与えられないと学び始められません。過去の経験を持ち出し、教材を評価しながら自由なペースと方法で学習しようとします。
このような学習特徴をもった社会人に対して、自律的に「未知の未知」を打破して学習目標に到達することを期待するのは、極めて困難なことです。だからこそ組織として、個人の学習設計への外部からの介入が不可欠なのです。
参考書籍の渡し方だけで変わる
知識や経験が豊富な先達であれば、学習の地図を描くこともできるかもしれませんが、決してかんたんなことではありません。現実的な一手は、たとえば教育する側が特定の参考書籍を選び、その目次をメタ認知の足場とすることです。目次はまさに書籍の地図なので、知っていることと知らないことを分類しながら、全体像を把握するためには打ってつけです。
さらに「まず第1章に出てくる専門用語を、意味とともに暗記するつもりで読んでみよう」と、学習のプロセスが「記憶」から始まることも踏まえながら、学習の蹴り出しをします。このように、渡し方に少しだけ設計の意図をもたせるだけでも、学習の第一歩は大きく変わるのです。
ただ個人の成長意欲に依存しても、なかなか組織として学習文化は根付きません。6段階の学習行動のプロセスと、4種類の学習対象領域。これを前提として組織の学習、成長をデザインする。人手不足、追いつかないノウハウ継承、高い人材流動性と、人に関する課題が山積するこれからの組織において、これまで以上に重要になってくる視点だと思います。