インターネットがマーケティングをどう変えてきたか
初めて自分の投稿にハートマークを押してもらったときの、世界に認められたかのようなあの感覚。自分の言葉が世界のどこかに届き、誰かの琴線に触れ、何かがつながったようなあの感覚を、今でも忘れません。それは私が、インターネットの力を覚えた瞬間でした。
マーケティングの歴史のなかで、インターネットはまさに革命と呼ぶにふさわしい変化を起こしました。今回はマーケティングの変遷、とくにインターネットが登場した1990年代後半以降の移り変わりを見ていきたいと思います。
情報の非対称性が解消される
かつて、テレビという最強の拡声器は、誕生以降、長らく市場の支配者として君臨していました。しかし、インターネットが普及すると、ユーザーは自ら能動的に情報を検索することができるようになります。これにより企業とユーザーの間にあった「情報の非対称性」が徐々に解消され、パワーバランスが変化しました。ニッチな商品でも世界中から検索で見つけられるようになった傍ら、企業側も検索連動型広告(リスティング広告など)によってユーザーを待ち受ける姿勢が生まれました。一方的に発信する従来のマスメディアと異なり、双方向性のコミュニケーションが誕生したのです。
SNSの台頭による個人の力の覚醒
クチコミサイトやSNSが登場すると、企業とユーザーのパワーバランスはさらに変化します。もはや企業がテレビCMなどで一方的に「美しいブランドイメージ」を築こうとしても、一部の顧客をないがしろにしたり、有名人がこっそり宣伝する(ステルスマーケティング)ようなユーザーを欺く行為があれば、瞬く間に批判が殺到し、見抜かれるようになりました。たった1人の個人の怒りや共感が、巨大企業やマスメディアの権威をあっさりと凌駕してしまうような時代です。
情報の主導権は明確に個人に移りました。ユーザーは店舗に行って実際の商品に触れる前に、インターネット上の情報で購買判断をするようになりました。企業側は有益なコンテンツを発信し、ユーザーに見つけてもらうことで価値を共創する姿勢に変わっていきます。
急速なモバイルシフトと共感の時代
2010年代前半、爆発的にスマートフォンが普及します。いつでも、どこでもインターネットに接続でき、データ容量の大きい動画メディアも外出先で見られるようになりました。ここから世の中のコンテンツ量は圧倒的に膨れ上がります。この時点でユーザーはもはや、単なる分析のターゲットではありません。企業や他の個人が生む大量のコンテンツを選択的に消費するなかで、企業の誠実さや社会的意味を受け止め、その価値観に共鳴できるかどうかも購買判断の軸とするようになったのです。
このように、もう丸裸となった企業は商品訴求だけで差別化ができず、社会性と共感性を鍵としながら、あらゆるメディアを駆使してメッセージを発信することが求められるようになりました。ただ1人の顧客を理解するのではなく、社会全体を見渡すことが必要となってきています。マーケティングの難易度は格段に上がってきたといわざるを得ません。
AIの登場と変わらない本質
ここに、AIがさらなる地殻変動を起こそうとしています。AIがユーザーの潜在的な好みや文脈を理解し、適切なタイミングでパーソナライズされた情報を提供する、レコメンデーションがあたりまえになってきています。一方で、ユーザーの検索行動に対してAIが回答を提示することで、企業のコンテンツにはたどりつかないという「ゼロクリック検索」も急増しています。企業とユーザーのコミュニケーションは今まさに新しい時代に突入しようとしています。
インターネットの登場以後の歴史は、企業がテクノロジーに翻弄されてきたという見方もできますが、それだけではありません。めまぐるしく変化するユーザー心理を的確にとらえ、いかに解像度を上げ、最適な解決策を提供するかを泥臭く追求し続けてきた歴史だといえます。テクノロジーではなく、顧客を見る。これこそがマーケティングの本質といえるかもしれません。