企業データベースの沼を渡る

企業データベースの沼を渡る

「企業のデータが複数あって営業履歴が分かれてしまっている」

「同じ社名の企業がいくつもあって、データが入れ違いになっている可能性がある」

「昨年の社名変更が反映されておらず、新しい企業として登録してしまった」

BtoB領域でのセールスマーケティングにおいて、企業データ管理を軽視していないでしょうか。AIに調べさせればかんたんにできるのではないか、単純な作業だから難しくないのではないか。いいえ、底なしの沼です。

マーケティングでSTPから着手する

1970年代から80年代にかけ、営業の足とテレビCMなどの物量的なマーケティングが主流だった時代を越え、顧客が何を求めるかを分析し、適切な商品サービスを届けるためのSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の考え方が広がりました。もはや「ターゲットは誰か」という問いはマーケティングのみならず、商品開発やメディア制作などあらゆるビジネスシーンであたりまえに考えるようになったため、「STP」という言葉はむしろ耳慣れないかもしれません。

BtoB領域においてもSTPは不可欠な概念なのですが、その最初のステップであるセグメンテーション、市場細分化の段階に巨大な沼が口を開けていることを、実務のなかで目の当たりにされた方は少なくないはずです。

セグメンテーションの前に広がる企業データの沼

セグメンテーションのために、まず顧客の企業情報を細かく正しく捉える必要があります。しかし、自前で企業データベースを構築、管理することは、3つの沼によって困難を極めます。

1つ目の沼は、静的データの名寄せです。日本にはおよそ300万超の企業があるとされ、重複名称が無数にあります。前株後株の違いはまだよいほうで、創業者の苗字、創業の地名、「日本」「東洋」「大和」「朝日(旭)」など国を連想させる名称、「工業」「商事」「興業」など産業名、これらの組み合わせによる「同名異社」は無数に存在します。

ここで救世主となる固有値が法人番号なのですが、名刺や企業ホームページに法人番号が記載されていることは稀であり、法人番号のデータベース入力は後回しになりがちです。さらに、登記上の本店住所と本社ビル所在地が異なっていたり、社名変更、グループ統廃合、本社移転などが発生したりと、少し目を離すだけで社内のデータベースはあっという間に重複レコードの温床となります。

不完全になりがちな動的データ

次の沼は、動的データ収集のゆらぎと虫食いです。BtoBのセグメンテーションをエリアや企業規模、業種などの静的データのみで完結させることは少なく、企業の最新動向、どのような課題や需要がありそうか、という動的データを加味して戦略を立てます。このときたとえば「SDGsに積極的に取り組んでいる」という項目で抽出したいとき、「積極的」という基準は主観によって大きくゆらぎます。また非上場企業などでは公開情報が少ないこともあり、調査そのものが後回しにされがちです。確からしいといえる、ゆらぎと虫食いの無い動的データを集める、ここもかなり深い沼になります。

変化に追いつけないデータ更新

3つ目の沼は、データベースの陳腐化です。静的データの変化が激しいことはすでに触れましたが、動的データこそ、それ以上に変化します。マーケティング、セールスのPDCAを回すたびに「次はこの属性で切ってみよう」「この属性の定義は適切ではないのでは」と、次々と検証する軸が生まれ、一向に理想の完成形にはたどり着きません。

そうこうしているうちに社内の組織も変わり、データベース管理の文化もまた変わっていくことになります。ふとしたときに「これは何のためのフラグだっけ」と、沼の上で切なくも傾いた旗を眺めることになるのです。

インプットがアウトプットを左右する

このように、データベース整備は単純作業と見なされがちですが、この沼の上でもがき苦しみながら築かれる泥臭いデータの質こそが、マーケティングやセールスの質をも左右するといって過言ではありません。

ターゲティング、集客とリード獲得、営業の商談フェーズ管理、既存顧客の契約更新に至るまで、この企業データベースを連続した固有のデータとして漏れなく管理できるか否かが、組織の戦略実行力につながります。インプットの質がアウトプットの質を決めるという真理は、AI全盛の時代にこそ重みをもつのです。

新しい役割「レベニューオペレーション」

2026年4月現在、AIも飛躍的に進化していますが、未だインプットの誤りや文脈を汲み取り、自動で名寄せやクレンジングができる水準にはありません。世の中には企業データベースを提供するサービスもありますが、自社の戦略に合致した独自の動的データは、マーケティングやセールスの組織で管理し続ける必要があります。

こうして今後も残存するであろう沼を渡るための役割が、「レベニューオペレーション」です。マーケティング、営業、請求と契約更新など、企業データベースとビジネスのプロセスを統合的に管理するために、部門を横断する職種として注目されています。

企業データベース構築は単純作業ではなく、企業の営業活動の資産をつくる業務です。ここに目を向けて適切なリソースを投下することで初めて、顧客、市場を正しく理解することにつながるのです。

書いた人

関尾 潤

制作・編集職として事業会社と受託制作会社の双方を経験し、上流の事業立ち上げから下流の執筆・デザインまで一気通貫で対応。アペルザ入社後はマーケティング企画や営業ツール制作を担当。制作者と事業者の両視点を活かしてコンテンツを発信します。

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