見えなくなったファネルを打ち破る武器
「今こういうことをやろうと思っていて、サービス調べたらこのへんが候補なんだけれど、どう思う?」
過去、となりのチームからのちょっとした相談から始まったソリューション選定。ここから行ったり来たりの長旅に出ることになります。そもそもどういう課題があったんだっけ、どこまでがゴールなのだっけ、話を聞くうちにどんどん巻き込まれていきました。
発起人とともに要件定義、ソリューションの情報収集、現場ユーザーへのヒアリング。上長に話を持っていくとさらに要件が細かくなり、またシステムや法務の管理部門からも新しい要件が出てきます。もやもやしているうちに斜めの意見から別案が出てくることもありました。
ようやく2社に絞り込んで、発注見込み先との相談、交渉を進めますが、なかなか要件が合わず停滞。そんななか、別の部署での過去実績から紹介された新しい発注先が要件に合致し、あっという間に決裁が下ります。多少のコスト増にも目をつぶり、管理部門にも協力してもらい、スピード稟議が進んでいきました。
私はマーケティングファネルを進んだのかという疑問
これを売り手側目線でのマーケティングファネルで捉えてみると、どうでしょうか。一般的なマーケティングファネルは、認知、興味関心、比較検討、そして購買へと、上から下に漏斗の水が流れていくように進んでいくとされています。
しかし、上記の経験では、個人的にも新しいサービスの認知、興味関心と比較検討を短期間のうちに繰り返し、途中で何度も要件を見直しましたが、同じように並行して複数のメンバーがこのプロセスをたどっています。最終的には突如として候補に上がった発注先が一足飛びに決まりました。
それは決してファネルを段階的に進んでいった感覚ではなく、とても多くの要素と事情が絡み合いながら、闇のなかで妥当なポイントを探していく作業でした。
このことから、「この顧客企業は比較検討フェーズ」などとラベルを貼ってファネルに当てはめることに、無理があるのではないかと考えたのです。
BtoBの購買プロセスは一方向ではない
ソーシャルメディアで流れてきた広告で認知し、ちょっと調べてみて、だんだんと欲しくなり、他の商品も比較してみて、ぽちっと購入する。BtoBにはこのような単純な流れはありません。とくに数十万円を超えるような取引の場合、購買プロセスに関わる人数は10人程度にも膨れ上がることがあります。担当者の一存ではなく、決裁をする上長、役員、利用する現場メンバー、管理するシステム部門や法務、財務部門。それぞれに着眼点、懸念点が異なります。
この購買プロセスはファネルを上から下へと一方向に流れていくものではなく、複数のハードルを順不同にクリアしていく、非線形で複雑なプロセスです。
ファネルが暗闇になった「ダークファネル」
個々に心情の変化はあるため、ファネルが存在しないということではなく、売り手側からは見えにくいということです。これを「ダークファネル」といいます。
たとえば、ある担当者が検討のためにダウンロードしたPDF資料が、参考資料として社内企画書に添付されて回覧される。このとき別の担当者が興味を抱く可能性がありますが、これを売り手側は検知できません。「前職で利用したことがあって、こういうデメリットがあった」などと社内で会話されていることも、売り手側は検知できません。
ましてや対話型AIに相談しながら検討する時代ですから、検知の難易度は格段に上がっています。顧客の行動や状態を検知できなければ、ファネルを管理することはできません。
追跡の前に、まずは顧客に「武器」を届ける
このような見えない顧客の行動をAI、テクノロジーによって追跡、把握しようという動きもあります。一方でまずは、顧客の立場になって考えたとき、欲しいときに必要な情報がそこにある、という状態を整えることのほうが先決だと思います。
顧客の購買プロセスにおける登場人物、その役割、合意形成のために各ポジションでどのようなハードルがあるかを想定し、その答えになるようなコンテンツを用意する。それぞれのコンテンツにはハードルを超えて別のタスクへと移行できる情報量、品質が必要です。これが顧客にとって社内の壁を突破するための武器となるはずです。これは請求して資料がダウンロードできるのではなく、可能な限りオープンな状態でなければ、顧客はすぐに武器を手に取れません。
私も当時、もしそのようなコンテンツがあれば社内のプロセスも円滑に進み、発注先選定の結果は違ったのかもしれません。